AIを会議に招く。ただし、決定権は渡さない

Wharton校のEthan Mollick准教授は、生成AIを仕事や教育で実践的に研究する中で、 「AIを、いつもテーブルに招こう(Always invite AI to the table)」と提案しています。

これは、何でもAIに決めさせるという意味ではありません。企画、分析、批判、比較、記録など、 できる限り多くの場面で一度AIに参加させ、どこまで役に立ち、どこで間違い、何が不得意なのかを人間が学ぶという考え方です。

野球の現場でAIをテーブルに招くなら、目的、現在地、制約、役割、評価基準を先にそろえ、複数の立場から検討させる必要があります。

01|前提をそろえる:選手の目標、役割、既往歴、試合までの日数、利用できる時間と人員を先に渡す
02|役割を与える:アナリスト、S&C、メディカル、スキルコーチなど、異なる立場で検討させる
03|事実と解釈を分ける:球速や疲労は事実。「気持ちが弱い」は解釈。入力段階で混ぜない
04|人間が決め、記録する:AIの提案は候補。選手本人の感覚を確認し、責任者が決定する

AIをテーブルに招く目的は、
会話を減らすことではなく、話すべきことを明確にすること。

モデルは、数学に埋め込まれた意見

数学者でデータサイエンティストのCathy O'Neil氏は、 「モデルは、数学に埋め込まれた意見である(Models are opinions embedded in mathematics)」と述べています。

AIの答えが数字や確率で示されると、私たちは客観的な事実だと錯覚しやすくなります。 しかし、過去の評価制度や成功者の特徴を学習したAIは、その組織が過去に持っていた哲学や偏りも一緒に学びます。

野球でも、球速、回転数、打球速度、走塁、体組成、睡眠など、以前とは比べものにならないほど多くのデータを扱えるようになりました。 だからこそ「測れるものだけを大切にする」という新しい偏りが生まれます。

場面危険な使い方対話を深める使い方
起用総合点だけで順位を決める評価項目と重みを公開し、現場所見と比較する
育成似た成功者のメニューをそのまま当てる本人の目的・既往歴・反応を条件に入れる
故障予防高リスク判定だけで登板を止めるどの要因が寄与したかを医療・S&Cと確認する
評価数字を説明責任の代わりにする本人が異議や背景を語れる面談を組み込む

AIを使う前に、最低限問うべきことがあります。成功を誰がどう定義したか。データを誰がどの状況で集めたか。 測れていない重要な情報は何か。このモデルは誰を過小評価しやすいか。そして、判定に本人が異議を申し立て、文脈を説明できるか。

AIリテラシーとは、プロンプトの上手さだけではありません。モデルの背景にある組織の哲学を読み解き、必要なら更新する力です。