フォームの変化には気づけるのに、
指導者は日々、選手の動きを細かく観察しています。投球フォームのわずかなブレ、スイングのタイミングのズレ、 重心の位置。こうした技術的な変化には、経験を積むほど敏感になっていきます。
ただ、同じだけの注意を、選手の言葉にならないサインに向けられているかというと、話は別です。 表情が少し曇っている。声のトーンがいつもより低い。返事までの間が長い。練習への入り方が重い。 失敗した後の反応がいつもと違う。こうした変化は、フォームのズレと同じくらい、選手の状態を映しています。
技術指導はできても、
選手の本当の状態はつかめていないことがある。
聞く、整える、返す
選手との対話で大切なのは、いきなり核心に踏み込むことではありません。 「少し気になったけど、どうだった?」というように、選手が話しやすい余白をつくることから始まります。 そこから先は、3つの段階で考えると整理しやすくなります。
「そんなこと気にするな」「もっと自信を持て」。こうした言葉は、一見前向きに聞こえても、 選手の不安をただ蓋をするだけで終わってしまうことがあります。不安を消そうとするのではなく、 まずは話せる状態をつくること。そこからしか、本当の課題は見えてきません。
不安の正体は、目的・目標・役割・進め方のズレ
選手が抱える不安は、多くの場合、次のどこかにズレがあるときに生まれます。 この練習の目的が分かっているか。今の目標に納得できているか。自分の役割が分かっているか。 どの順番で課題をクリアしていくのか、進め方に見通しが持てているか。
投手であれば「なぜこの練習をしているのか」「どの球速を目指すのか」「今の役割は先発なのか、 中継ぎなのか」。野手であれば「何のための打撃練習か」「求められているのは打率か、長打力か」。 こうした一つひとつをすり合わせていくことで、選手自身が、自分の中にある不安の正体に気づいていくことがあります。
不安の中に、強みの種がある
不安は、消すものではなく、使い方を覚えていくものだと考えています。というのも、選手の不安の中には、 その選手の強みが隠れていることが少なくないからです。
慎重すぎる選手は、準備力が高い選手かもしれません。考えすぎる選手は、理解力が深い選手かもしれません。 不器用な選手は、一度つかんだものを簡単に手放さない選手かもしれません。 選手自身は、弱みだと思っている部分の中にこそ、将来の武器が隠れていることに気づいていないことがあります。
選手は、教えた分だけ育つのではなく、
気づいた分だけ、自分で育ち始める。
球速、打率、打球速度、回転数。数字は大切な指標です。ただ、数字だけを見ていては、選手の本当の状態は見えてきません。 数字の裏側にある表情を見ること。結果の奥にある不安を拾うこと。そこまで見て、初めて指導になるのだと思います。


