本人の問題に見えて、関係性の問題であることがある

人は、日常で接する人、信頼している人、緊張する人、距離を置いている人の影響を受けて行動します。 本人の問題に見えることが、実は周囲との関係性の変化から始まっている場合は少なくありません。

ある調査では、転職経験者の半数以上が人間関係を転職のきっかけに挙げており、その対象は直属の上司だけでなく、 先輩や同僚にも広がっていたといいます。また、職場で人間関係に難しさを感じた経験がある人は8割を超えていました。 つまり、指導者が本人との関係だけを良くしても、選手や部下の不安が消えるとは限らないのです。

選手を取り巻く、三つの関係

選手に影響を与える人間関係は、大きく三つに分けられます。

① チームメンバー:同学年・先輩後輩・ポジション仲間
② 組織内の関係者:監督・部長・トレーナー・アナリスト・寮や学校の関係者
③ 指導者自身:日常的に接する担当コーチ

① チームメンバー:変化は、普段の会話に先に出る

離脱の防止や不安の解消には、早い段階で周囲の変化を察知する必要があります。 ただし、「何か問題あるか」と正面から聞くだけでは、選手は簡単に本音を出しません。 誰とアップしているか、食事や移動で誰と一緒か、練習後に誰と話すか。 普段の観察と何気ない会話が、対話で聞くべき問いをつくります。

② 組織内の関係者:専門職の違いを、選手に背負わせない

監督は起用、コーチは技術、トレーナーは健康、S&Cは身体能力、アナリストは数値を見ます。 意見が違うこと自体は問題ではありません。誰が何を目的に話しているかを整理せず、 選手に別々の指示を渡すことが問題です。選手の周囲の関係を知り、判断を統合する人が必要になります。

③ 指導者自身:自分の言葉が、枠をつくっていないか

指導者の問いには、その人が見ている世界が表れます。「レギュラーを取りたいんだろ」と結論を先に置けば、 選手はその枠の中でしか答えられません。指導者が知らない情報を教えてもらう姿勢を持つことで、 選手の見方と選択肢は広がります。

数字を見て、人を見て、関係を見て、
最後に本人と話す。

対話で使える、五つの問い

人間関係を聞く目的は、噂を集めることでも、誰かを悪者にすることでもありません。 本人の視野を広げ、必要な支援へつなぎ、チーム内の孤立や誤解を早く見つけることです。 次の五つは、練習中の短い会話でも使えます。

最近、誰と一番よく話している?
練習や試合の後、誰に一番相談している?
前より話さなくなった相手はいる?
今のチームに、どんな貢献ができる?
自分に見えていない人間関係や事情はある?

チームに問題が起きた時、本人だけを呼んで話しても解決しないことがあります。 本人の技術、身体、心理を見たうえで、誰とつながり、誰と離れ、どこで情報が止まったかを確認する。 この順番が、指導者の思い込みを減らします。