トレーナーが選手を見るとき、投球フォームや身体機能の変化には、驚くほど繊細に気づきます。 肩の開きが数度違う。着地の位置がわずかにずれている。そうした微差を見抜く目は、日々の観察の積み重ねで磨かれていきます。

では、選手の「大丈夫です」という言葉の裏にある“大丈夫じゃなさ”には、同じ精度で気づけているのか。 稜線-Ryosen-編集部では、現場歴の長いトレーナーに、 選手と向き合うときに大切にしている「見極め」について話を聞きました。

見極め①|非言語のサインを拾う判断

選手の言葉と、実際の状態にズレを感じることはありますか。

しょっちゅうありますよ。「大丈夫です」って、みんな言うんです。でも、表情がいつもより暗かったり、 声のトーンが落ちてたり、返事までの間が微妙に長かったり。練習に入る雰囲気も、重たい日ってあるんですよね。

正直に言うと、投球フォームのわずかな崩れにはすぐ気づけるのに、表情の変化には気づけない、 っていうのが一番よくないパターンだと思ってます。フォームを見るのと同じ精度で、 選手の状態のズレも見なきゃいけない。そう自分に言い聞かせてますね。

選手は、弱さを見せない規範が強い環境で育っていることが少なくありません。 本音を言葉で出しにくいからこそ、表情や声のトーン、反応の遅れといった非言語の情報に、 本人が抑えた感情が漏れ出やすくなります。言葉だけを聞いていては、拾いきれないサインです。

サインに気づいたとき、どう声をかけるのですか。

いきなり「なんかあった?」とは聞かないです。それだと選手も身構えちゃうので。 「今日、ちょっと重たそうに見えるけど、どう?」みたいに、具体的に聞くようにしています。 違和感に気づいた時点で結論を出さない。あくまで会話を始めるきっかけにするだけです。

見極め②|選手のタイプで届け方を変える判断

同じ指摘でも、選手によって伝え方を変えているそうですね。

変えますね。同じ「フォームのここを直そう」って話でも、強気なタイプの選手には 「ここが直れば、もっと球速伸びるよ」って、挑戦として持っていく方が前向きに取り組んでくれます。

逆に慎重なタイプの選手だと、いきなり課題から入ると萎縮しちゃうので、 まず今できてることを認めた上で、「ここを整えるともっと安定するよ」って、 積み上げの延長として伝える。同じ内容でも、届き方が全然違うんです。

何を伝えるかを一つに決めても、伝え方まで一つに決めてしまうと、届く選手と届かない選手が出てきます。 相手の状態に合わせて伝え方を調整することは、本人の納得感を高め、行動の定着につながっていきます。

選手のタイプを見分ける基準は、一度の会話だけでは分かりません。 練習中の反応、指摘を受けたときの表情、次の練習での取り組み方といった積み重ねの中から、 少しずつ輪郭が見えてきます。

見極め③|不安の「真因」を見分ける判断

「最近調子が悪い」という相談を受けたとき、何を確認しますか。

まず、その不安がどこから来てるのかを見ます。技術的な不安なのか、体力なのか、怪我への不安なのか、 それとも起用法とか評価への不安なのか。同じ「調子が悪い」でも、原因が違えばかける言葉も練習も全然変わってきます。

「それが一番気になるのは、どんな場面?」「その感じ、いつ頃から?」って聞いていくと、 選手自身も、漠然とした不安の正体に自分で気づいていくことがあるんです。 原因を勘違いしたまま声をかけると、逆に不安を強めてしまうこともあるので、そこは慎重にやります。

技術不安には練習を、役割不安には対話を、評価不安には承認を。「何が悪いか」ではなく「何が起きているか」を、 選手と一緒に探っていく姿勢が、この見極めの土台になっています。

見極め④|不安を「強み」に読み替える判断

選手の弱みを、強みとして伝え返すこともあるそうですね。

ありますね。「石橋を叩いて渡るタイプで、なかなか思い切れない」って悩んでた選手に、 「その慎重さがあるから、誰よりも準備を丁寧にできてるんだよ」って伝え返したことがあります。

大事なのは、根拠のない励ましにしないことです。実際にその選手が丁寧な準備をしている場面を見てるから言える。 で、一度伝えて終わりじゃなくて、実際にその強みが出た場面があれば、そのたびに 「今のは、まさにその準備力が出た場面だったね」って、具体的に結びつけて伝え返す。 それを繰り返すうちに、選手の中で少しずつ、その意味づけが定着していく感じがします。

対話は、聞く・整える・返す

こうした見極めに、共通する型のようなものはありますか。

「聞く→整える→返す」、この3つですね。まず選手の言葉や様子をそのまま聞く。 次に、それを自分の中で意味づけし直して整える。それを、選手が受け取りやすい形にして返す。

これ、選手だけの話じゃなくて、新しく入ってくるスタッフの育成でも同じなんですよ。 誰かの言葉や様子を受け止めて、意味づけて、伝え返す。相手が選手でもスタッフでも、根っこは同じだと思ってます。

稜線が考えること

非言語のサインを拾い、選手ごとに届け方を変え、不安の真因を見分け、弱みを強みに読み替える。 この4つは、どれも一朝一夕には身につきません。しかし、意識して観察し続けることで、 誰でも少しずつ磨いていける見極めでもあります。

取材の最後に、印象に残った言葉があります。「結局、選手を“見る”ことをサボらなければ、大体のことは気づけるんです」。 特別な才能や資格の話ではなく、日々選手と向き合う姿勢そのものが、この4つの見極めを支えているということでした。

稜線-Ryosen-編集部では、こうした「対話の判断」を、 今後もPEOPLEのシリーズとして掘り下げていきます。技術や数値だけでは語れない、 現場で選手と向き合う人たちの言葉を、これからも届けていきます。