スクワットの重量が伸びても球速が変わらない場合は、力の使い方や投球動作まで確認することが必要です。 Jobe ATHLETE BASEでは、測定結果と選手の感覚、実際の投球動作を照らし合わせながら課題を整理します。 球速向上を考えるときは、筋力、可動性、力の伝達、投球動作、疲労という5つの要素に分けると、取り組むべきことが見えやすくなります。
1 筋力とパワーを高める
まず確認したいのは、力を生み出す土台です。パワーとは、簡単にいうと「大きな力を素早く発揮する能力」のことです。 筋量や最大筋力が不足している選手には、スクワット、デッドリフト、ブルガリアンスクワットなどを通して基礎的な能力を高めます。 その際、持ち上げた重量と一緒に、体重に対してどれだけの力を出せるか、同じ姿勢や深さで動けるかも見ます。
体組成を測る場合も、体重の増加だけで成果を判断しません。身長に対する身体の大きさを踏まえ、除脂肪量の変化と動きやすさを確認します。 除脂肪量には水分や骨、臓器も含まれるため、筋肉量そのものとは区別します。 身体が大きくなった結果、投球のリズムや動作速度がどう変わったかまで追うことが大切です。
投球では短い時間で力を発揮します。大きな力を出せても、その力を必要な瞬間に使えなければ球速には十分につながりません。 そこで筋力トレーニングに、適切な負荷のスクワットジャンプやメディシンボールスローなどを組み合わせます。 筋量、最大筋力、パワーという順に不足を整理しますが、各要素を完全に分けるのではなく、選手の発育や経験、シーズンに応じて配分を変えます。
パワーは、直線運動では力とその方向の速度の積で表されます。重い負荷を動かす能力と、軽い負荷を速く動かす能力は、どちらも確認する意味があります。 同じ球速を目指す選手でも、筋力づくりに時間を使うべき人と、すでにある力を素早く使う練習が必要な人では、処方が変わります。
2 可動性と動きを支える能力を整える
可動性は、関節を大きく動かせることだけを意味しません。投球に必要な範囲で、姿勢を保ちながら動かせることが重要です。 股関節、胸椎、肩甲骨、肩関節の動きを確認し、どこで動きが制限され、どこが代わりに動いているかを観察します。
例えば胸郭を回す場面で腰を大きく反らしている場合、胸椎の回旋や骨盤の位置を見直す余地があります。 股関節の動きを補おうとして膝や足部が崩れる場合もあります。 左右差は投球による適応を含むため、差があるという理由だけで、すべてを同じにする必要はありません。
股関節と骨盤を分けて動かす練習、胸椎回旋、肩甲骨周囲のエクササイズを行い、立位や片脚支持でも使えるか確認します。 チューブの外旋・内旋や、うつ伏せで行う肩周囲の運動もその一部です。 肩や肘を無理にひねって可動域を広げることは避け、痛みや引っかかりがある場合は 医療的な評価につなげます。
3 下半身からボールへ力を伝える
下半身で生み出した力を投球に生かすには、身体をホーム方向へ進める動きと、踏み出し脚で身体を支える動きのつながりが必要です。 右投手なら主に右脚で移動をつくり、左脚でその移動を受けながら、骨盤や胸郭の回旋へつなげます。左投手では左右を読み替えます。
現場では、この踏み出し脚の働きを「ブロッキング」という言葉で説明することがあります。前への移動を適切に制御し、上体を支える働きです。 膝を伸ばし切って固定する指示ではありません。股関節、膝、足部が協調して力を受けられるかを見ます。
地面反力(地面を踏んだときに、地面から返ってくる力)と球速の関係も調べられています。 成人の投球経験者を対象とした研究でも、踏み出し脚の地面反力と球速との関連が報告されています。 ただし、これは関連を示す結果で、強く踏めば必ず速くなるという意味ではありません。[1]

シングルスクワットやブルガリアンスクワットでは、殿筋、ハムストリングス、内転筋などを使いながら片脚で身体を支えられるかを確かめます。 足幅、前後の距離、体幹の傾きによって課題は変わるため、形だけをそろえません。 さらにサイドランジ、ランドマイン、メディシンボールの叩きつけへ進み、足で受けた後に上体を動かす感覚を投球へ戻します。
重心の高さも、投球へつなげるうえで大切な観察点です。軸脚で沈み込み過ぎて移動が遅れる選手もいれば、 高い位置のまま踏み出して力を受けにくい選手もいます。ブルガリアンスクワットの深さや足の距離を調整し、 どの高さなら支えられるかを確かめます。そのうえで投球中の重心移動を見直します。
4 回旋の速さと投球のタイミングを合わせる
回旋を速くするには、骨盤、胸郭、腕がどのタイミングで動いているかを確認します。 骨盤だけを急いで回したり、胸を無理に残したりすると、選手によっては動きがつながりにくくなります。 いわゆる捻転差(骨盤と胸郭が回旋するタイミングのズレ)も、角度を大きくすること自体を目標にはしません。
投球動画では、軸脚で支えている間の重心の位置、踏み出し足が着く時点の上体、リリースへ向かう胸郭と腕の動きを続けて見ます。 ある一コマの形が似ていても、そこへ入る速さやタイミングが違えば、同じ投げ方とはいえません。

これまでの指導では、回旋を強く意識するより、脚で身体を支える方向を整理したほうが動きやすくなる選手がいました。回旋を強く意識しすぎると、かえって動きがつながりにくくなることもあります。
ランドマインでは、重量や速さと一緒に、身体が前へ流れていないか、腕だけで操作していないかを確認します。 そこで得た感覚がキャッチボールや投球でも再現できるかを確かめて、初めて次の負荷を決めます。
フォームを変える際は、一度に多くの指示を加えず、狙いを一つに絞ります。例えば踏み出し脚の支持を変えたら、 球速だけでなく、狙った場所へ投げられるかも確認します。選手の投げやすさが改善しても数値が変わらない場合は、 練習を重ねて安定するかを見る段階なのか、別の課題を探す段階なのかを考えます。
5 疲労と回復を含めて球速を評価する
球速は、その日の身体の状態によっても変わります。登板や練習の内容、睡眠、食事、肩肘の違和感を記録し、 好調な日の数値と比較します。最高球速だけでなく、同じ強度で投げたときの球速、制球、投げやすさ、 翌日の状態まで含めると、無理なく使える能力が見えてきます。
普段と同じ負荷のトレーニングで速度が落ちている場合は、休息や負荷を見直す材料になります。 ただし、低下の原因は疲労に限りません。準備運動、動作の深さ、努力度、測定条件なども影響します。 数値と聞き取り、動作を合わせて判断する必要があります。
記録には、測定日だけでなく前日の登板や練習も残します。球速の低下が一時的なものか、数週間続く変化かで対応は変わります。 単日の良し悪しに振り回されず、自分の通常範囲と回復の経過を知ることが、練習計画の精度を上げます。
球速を狙う日と回復を優先する日を分け、投球とウエイトの負荷を一緒に管理します。 肩肘に痛みがある状態で最高球速を測ることは避けます。 術後や成長期では、担当する医師や専門職と相談し、投球とトレーニングの進め方を調整します。
VBTでトレーニングの変化を確かめる
VBTはVelocity Based Trainingの略で、動作速度を測り、重量や回数を調整する方法です。[2] 筋力づくりの段階から活用でき、同じ重さをどのくらい速く動かせるかを継続して確認します。 代表的な指標には、持ち上げる局面の平均速度と、その局面で最も速い瞬間のピーク速度があり、通常はm/sで表示されます。
比較には、機器、種目、負荷、可動範囲、装着位置をそろえることが必要です。平均速度とピーク速度を混ぜたり、 異なる機器の数字をそのまま比べたりすると、変化の意味が曖昧になります。 ランドマインのように軌道が曲線になる種目では、その機器が何の方向や区間の速度を測るかも確認します。
数値の読み方を示す仮の例として、同じ40kg、同じ深さのスクワットで平均速度が0.70m/sから0.80m/sへ変わったとします。 負荷を速く動かせた可能性はありますが、深さが浅くなったり、反動が増えたりしていないかを動画で確認します。 別の日にも再現できるかを見てから、負荷を上げるか、速さを保って続けるかを決めます。 この差を、そのまま球速の上昇幅に換算することはできません。
測定した速度は球速そのものではなく、速度だけで、力を素早く高めていく能力を示すRFD(力の立ち上がり率)を測ったことにもなりません。 同じ負荷で速く動けるようになったら、ジャンプやメディシンボール、投球動画と照合し、最後にボールの速度と制球を確かめます。 大切なのは、測定で課題を見つけ、取り組みを選び、投球で効果を確かめる流れです。 選手が試合で使える球を増やすために、数字を次の練習へつなげていきます。
- McNally MP, et al. 2015. Stride Leg Ground Reaction Forces Predict Throwing Velocity in Adult Recreational Baseball Pitchers. J Strength Cond Res. 29(10):2708–2715. 踏み出し脚の地面反力と球速の関連。成人の投球経験者18名の研究で、トレーニング効果や全年代への適用を直接示したものではありません。
- Achermann B, et al. 2023. Velocity-Based Strength Training: The Validity and Personal Monitoring of Barbell Velocity with the Apple Watch. Sports. 11(7):125. VBTによる速度のモニタリングと、平均・ピーク・推進局面の速度を区別する背景。機器の検証結果は、その研究の機器・種目・条件に限って解釈します。
資料確認日 2026年9月14日



踏み出し脚の働きは、「ブロッキング」という言葉で説明しています。前への移動を適切に制御し、上体を支える働きです。膝を伸ばし切って固定する指示ではなく、股関節、膝、足部が協調して力を受けられるかを見ています。