ウォーミングアップの目的は、何か

ウォーミングアップという言葉からは、身体を温めることが思い浮かびます。 筋温を高めることは、たしかに大切な要素のひとつです。 ただし、目的はそこにとどまりません。

筋肉、関節、神経系、循環器系を、これから行う運動に向けて段階的に準備し、 必要な動作を発揮しやすい状態にする。ウォーミングアップが担っているのは、この役割です。

一般的には、次の4つが目的として挙げられます。

体温・筋温の上昇 身体が動きやすい温度まで上がる
関節可動域の確保 これから使う範囲まで関節が動くようにする
筋活動の準備 必要な筋が働ける状態にする
動作の確認 これから行う動きを、低い強度で確かめる

では、ウォーミングアップを行うとパフォーマンスは上がるのか。 この問いを扱った研究は、2010年の系統的レビューにまとめられています。 32本の研究を集めたこのレビューでは、調べられた評価項目のおよそ8割で向上が示されていました。 もっとも、レビュー自身が、設計のしっかりした比較試験はまだ多くないと断っています。

RAMPとは、どんな考え方か

ウォーミングアップの組み立て方として、スポーツ科学ではRAMPという枠組みが知られています。 2007年にIan Jeffreysが提案したもので、次の3つの段階からなります。

R Raise ― 上げる 心拍数、呼吸、体温、血流を上げる段階。低い強度で、競技に関係のある動きを使って身体を立ち上げます。
A / M Activate & Mobilise ― 使える状態にする 必要な筋群を働く状態にし、その競技で使う可動域を引き出す段階。選手ごとの個別の種目も、ここに入ります。
P Potentiate ― 競技の強度へ近づける 強度の高い、競技に近い動きで、本番の強度へ段階的に上げていく段階です。

Raise、Activate、Mobilise、Potentiate。 頭文字は4つですが、ActivateとMobiliseは同じ段階の中で一緒に行われます。 大切なのは言葉を覚えることではなく、低い強度から始めて、 必要な部位を使える状態にし、最後に競技の強度へ近づけていく、という順序です。

動的ストレッチと静的ストレッチは、どう違うのか

動的ストレッチは、身体を動かしながら関節を大きく動かしていく方法です。 静的ストレッチは、ある姿勢で止まり、筋を一定時間伸ばし続ける方法です。

運動の直前にどちらを行うかで、そのあとのパフォーマンスが変わることが報告されています。 2011年にEuropean Journal of Applied Physiologyに載ったレビュー(BehmとChaouachi)は、 この主題を扱った研究を広く整理しました。

動的ストレッチ そのあとのパフォーマンスに影響しないか、向上させる場合があると報告されています。長めに行った場合に、その傾向が見られたとしています。
静的ストレッチ そのあとの出力が落ちたとする報告が多くある一方で、落ちなかったとする報告もあります。レビューは、その違いを時間と強度の問題として整理しています。

同じレビューは、ウォーミングアップの順序として、 低〜中強度の有酸素運動、大きく動かす動的ストレッチ、そして競技に近い動的な動き、 という流れを勧めています。 これは、前の節のRAMPの考え方とほぼ重なります。

静的ストレッチは、してはいけないのか

そうではありません。目的によって使い道があります。

先のレビューは、パフォーマンスの低下が見られなかった研究の特徴として、 静的ストレッチの合計時間が短かったこと(おおむね90秒未満)と、 不快感が出るほどの強度では行われていなかったことを挙げています。 また、高い静的柔軟性が求められる競技では、 鍛錬された選手において、短く強度を抑えた静的ストレッチを用いることで、 影響を小さくできる可能性があるとしています。

整理すると、静的ストレッチを一律に避ける必要はなく、 爆発的な出力を求める直前には、動的な運動を組み合わせるのが基本になる、ということです。 何を目的に、どのくらいの時間と強度で行うのかで、意味が変わります。

どちらが良いかではなく、
何のために、どのくらい行うか。

全員が同じ内容でよいのか

ウォーミングアップを、全員同じ内容で終わらせないこと。 現場では、ここが重要になります。

投手であれば、肩や肘だけでなく、股関節、胸郭、肩甲帯、体幹の状態も確認します。 そのうえで、軽い全身運動から動的ストレッチ、低強度の回旋運動、メディシンボール、 シャドーピッチング、そして段階的な投球へと移行していきます。

同じ選手でも、日によって動きにくい部位は変わります。 どこが動いていないのかを確認したうえで、その日に必要なものを選ぶ。 決まったメニューを順に消化することとは、進め方が違います。

数値が上がれば、準備ができたと言えるのか

測定機器を使って、運動の前後で出力や動作を確認する現場もあります。 跳躍や回旋の数値を見れば、ウォーミングアップの前後で何が変わったのかが分かります。

ただし、ウォーミングアップ後の数値が高くなったからといって、 それだけで最適な準備ができたとは限りません。 測定そのものに慣れたことで数値が上がることもありますし、 同じ日の同じ測定でも、試行ごとにばらつきがあります。

数値は、その日の身体を読むための手がかりのひとつです。 数値を上げること自体が、ウォーミングアップの目的ではありません。

決められた体操を、消化する時間ではない

決められた体操を消化する時間ではなく、その日の身体を競技に適した状態へ導く準備の時間です。

温める、動かす、出力を上げる。この順序には理由があります。 そして、その日の身体がどこまで準備できたのかは、 メニューを終えたかどうかではなく、身体の状態で判断することになります。

現場で選手が何を確かめているのかについては、トレーナーの和田照茂氏が 寄稿で書いています。 身体の状態を整えるという考え方全体については、 コンディショニングとはで扱っています。

SOURCES

Jeffreys I. Warm-up revisited – the ‘ramp’ method of optimising performance preparation. Professional Strength and Conditioning. 2007;(6):12-18.
RAMPを提案した論文。

Behm DG, Chaouachi A. A review of the acute effects of static and dynamic stretching on performance. European Journal of Applied Physiology. 2011;111(11):2633-2651.
運動の直前に行う動的ストレッチと静的ストレッチが、そのあとのパフォーマンスに与える影響を整理したレビュー。

Fradkin AJ, Zazryn TR, Smoliga JM. Effects of warming-up on physical performance: a systematic review with meta-analysis. Journal of Strength and Conditioning Research. 2010;24(1):140-148.
ウォーミングアップとパフォーマンスの関係を調べた32本の研究をまとめた系統的レビュー。

NOTE

本稿は、ウォーミングアップの目的と考え方を整理した解説記事です。 特定の方法や器具、サービスの効果を示すものではありません。 紹介した研究の結果は、対象となった選手や条件の範囲での報告であり、すべての場面に当てはまるものではありません。 痛みや体調に関する判断は、医療従事者にご相談ください。