投球数だけで、投手の状態は判断できません。
球速も同じです。
球速が落ちた日に見るのは、球速そのものではなく、いつもと何が変わったかです。
球速が落ちたとき、球速のほかに何を確認するのか
球速と合わせて、ボールの質、リリース、身体の動き、本人の感覚を確認します。
私が確認するポイントは、次の5つです。
- 球速は落ちていないか
- ボールの質や回転は変わっていないか
- リリースポイントに変化はないか
- 身体の動きやフォームに乱れはないか
- 選手自身が違和感や疲労を感じていないか
これらを日頃のベースラインと比較することで、小さな変化にも気づくことができます。
なぜ、フォームだけを原因にしないのか
フォームが崩れていたとしても、なぜ崩れたのかまで戻って考えるからです。
怪我が起きたときに、「柔軟性がないから」「筋力が弱いから」「フォームが悪いから」と一つの原因に決めつけることにも注意が必要です。
例えばフォームが崩れていたとしても、なぜフォームが崩れたのか。
疲労によって身体が動かなかったのか。
必要な可動域が出ていなかったのか。
出力が上がったのに身体がその負荷へ対応できていなかったのか。
そこまで戻って考えます。
表面に出た現象だけを修正しても、根本の問題が残っていれば再び同じことが起こります。
疲労によって投球動作が崩れると、それまで全身で生み出していた力を腕だけで補おうとすることがあります。
その状態で投げ続ければ、肩や肘への負担が大きくなります。
疲労と球速の関係については、実験の報告があります。
2007年に学術誌 American Journal of Sports Medicine に載った実験(Escamilla ら)は、大学生の投手10人を対象にしました。
同じ実験は、試合を模した形で7回から9回まで投げてもらい、投球動作を測ったものです。
同じ実験は、最初の2イニングと比べて、疲労に近づいた最後の2イニングでは球速が有意に低下し、体幹がより垂直に近い姿勢になったと報告しています。
同じ実験は、球速と体幹の姿勢のほかには、測った項目に有意な差がなかったとも報告しています。
球速の低下がほかの変化と重なっているときは、どう考えるのか
複数の変化が重なっているなら、痛みが出ていなくても、そのままにしません。
投球やトレーニングなど、同じ動作や負荷を繰り返す中で起こる問題は、その前に身体やパフォーマンスの変化が出ていることがあります。
例えば、次の8つです。
- 以前より身体が動かない
- 肩や肘に張りが残っている
- ウォーミングアップをしても可動域が戻らない
- 疲労が抜けていない
- 投球フォームがいつもと違う
- 球速やコントロールが落ちている
- 睡眠が不足している
- 練習量や投球量が急に増えている
こうした変化が複数重なっているのであれば、「まだ痛くないから大丈夫」で終わらせません。
怪我になる前の変化を拾うことが重要です。
比べる基準は、何に置くのか
基準は、ほかの投手ではなく、その投手の「いつも」です。
同じ100球でも、球質が落ちていない投手もいれば、70球でパフォーマンスが低下する投手もいます。
大切なのは、投球数ではなく「いつもと何が変わったか」を継続して見ることです。
怪我の早期発見と予防で最も重要なのは、健康な時の数値を持っておくことです。
痛みや違和感があるときも、技術の確認を続けるのか
痛みがある場合は無理に技術論へ進まず、安全を最優先にしなければなりません。
選手が「肩が重い」と言ったときに、ただ休ませる、ただ投げさせるという判断だけでは不十分です。
その重さは疲労なのか、可動域の問題なのか、フォームのズレなのか、投球数や回復の問題なのかを見ます。
出典:Escamilla RF, Barrentine SW, Fleisig GS, et al. Pitching biomechanics as a pitcher approaches muscular fatigue during a simulated baseball game. American Journal of Sports Medicine. 2007;35(1):23-33.


